僕のお仕事 index/novel
2.光輝さんとマナー  1.2.3.4.5.6. 
 

 
「いいか、ゆっくり入れろ。角度を気を付けて。痛くするなよ」
 気を取り直して、いよいよ直腸洗浄。緊張する。
「本番前に傷つけちゃ、元も子もないからな。自分の身体は商品だと思って、大切に扱え」
 神妙に頷く僕。
 お湯が出ているシャワーノズルを手に持ち、持ち上げられている股間に近づける。
 丸見えの蕾にちょっとあてがってから、光輝さんを見る。
 なんか怖い。これを入れるの?
「お湯は出したままな。すべりがいいから。力を抜いてな」
 優しく微笑んで、頭を撫でてくれる。
 こくんと頷いてから、僕はノズルの先を蕾の中に差込み始めた。温かいお湯が、心地いい。人差し指くらいの太さなので、そんなに圧迫感もない。
「ん………」
 ちょっと奥まで入ったら、変な声が出てしまった。
 ノズルの先の方が肉壁を突き抜けて、直腸に入ったらしい。
 お湯の温かみを、下腹に直接感じた。
「……あ……はぁ……」
 呼吸が乱れる。
 入れたはいいけど、どうしていいか判らない。
 困って、光輝さんを見る。
 お湯が溜まっていく感覚が気持ち悪くて、助けを求めた。
「一回ノズルを出して」
 僕の手を持って、一緒に引き抜いてくれた。
「んっ」
 蕾からは、中に溜まっているお湯が出なかった。
「ちょっと我慢しろ」
 光輝さんは僕の蕾の中に、そっと人差し指と中指の先を挿入した。
「……ぁっ」
 思わず光輝さんにしがみ付く。
 光輝さんは入れた2本の指先を開くようにして、少しそこをこじ開けた。そして反対の手で、僕の下腹を軽く押した。指と指の開いた隙間から、直腸に入っていたお湯が出てくる。
「……んぁ………」
 この期に及んでも、変な声を出してしまい、僕はごまかすように、光輝さんにしがみ付いた。
 息が上がる。恥ずかしくて顔が上げられない。
 そんな僕を優しく引き剥がすと、済まなそうに言った。
「ごめんな、ちゃんと段取りを説明すれば、よかったな」
 そう言って、泣きそうな僕に、もう一度丁寧に教えてくれた。
 今度は違うノズルだ。といっても形状は同じで、ワンプッシュでホースとノズルが外れる。
「とにかくノズルを奥まで入れる。腹にお湯が溜まったら、ボタンを押して、ホースを外せ。下腹に力を込めれば、残されたノズルから、今度は出て行くから。お湯が出終わったら、ホースをはめて、またお湯を腹に入れる。そしてホースを外してお湯を出す。それを2,3回、繰り返せ。いいな」
 僕はこくんと頷き、やってみる。奥まで入れるのが、ちょっと大変だった。
 お陰ですぐお湯が溜まってしまった。かなり気持ち悪い。ホースを外して、お湯を出そうとしても上手く力が入らないのか、あまり出てこない。
 光輝さんは僕の下腹を押してくれた。恥ずかしいほど沢山お湯がでてきた。
 それを何回かくりかえした。
「そしたら、最後に今までの倍の量のお湯を入れろ」
「えっ!?」
「お湯が入ったら止めて、ノズルだけ抜く。数分がまんしろ。その後、そこの便器で排泄しろ。いいな」
 僕はびっくりして、ただ光輝さんを見つめた。
「それが終わったら、再度、今の洗浄を2,3回やる。その時は、人差し指を突っ込んで、内壁をぐるりとなぞって、内側を綺麗にするんだ。それから、お湯ですすぎ出す。わかったな?」
 無反応の僕に、言うだけ言うと光輝さんは立ち上がった。
「俺は外にいるから、自分ひとりでできるよな。なんか困ったら呼べ。すぐ来る」
 それだけ言うと、さっさと浴室から出て行ってしまった。
「…………」
 僕は途方に暮れて、シャワーノズルから流れ出るシャワーを見つめ続けた。
 そこまで、やるの……。毎回?
「………はぁ」
 大きくため息をついた。
 それでもやらなければ、話は進まない。仕事にならなければ、クビなのだ。
 僕は意を決して、言われたことに挑んだ。かなり大変だったけど。なんとかできたと思う。ユニットバスの意味がようやく解った。
 四苦八苦して、どうにか事を終わらせると、ヨロヨロとバスルームを出た。
 脱衣室で光輝さんがチョイスしてくれたバスローブを羽織り、通路のドアを開けた。
「………光輝さん」
 僕はびっくりした。腰タオル一枚で、ずっと廊下の壁によっかかって立っていたのだ。
 誰がいつ通るか、わからないのに。
「終わったか?」
 優しく微笑んで、頭を撫でてくれる。
「あ、………はい、なんとか」
 僕は感謝を込めて、指導のお礼を言った。
 こんなカッコのまま待っていてくれたことも。
「まあな、なんかあって飛び込む時は、服は邪魔だからな」
 笑いながらシャワーを浴びに、僕と入れ違いに入っていった。先に個室に行っていろと、部屋番号を指定して。
 
 その部屋は、幅は昨日の個室の半分で、奧に縦長だった。大きなベットが真ん中に一つ。右の壁際にパイプ椅子が二つ。左側にサイドボードが置いてあり、小物入れになっていた。
 正面西側は、上半分が前面ガラス窓。ブラインドが付いているけれど、その外の景色には、遮るもの何一つなく、9月の空が広がっていた。
 僕はベッドの左側に腰掛けて、空を眺めた。
 光輝さんはすぐに来た。何やら入っている袋を手に。
 それも気になるけど、何より僕は光輝さんに見とれてしまった。普段掻き揚げて、セットされている前髪が洗い立てで、無造作に顔に掛かっている。
 それを指で梳きながらサラサラと掻き上げる様が、めちゃくちゃカッコいい。それに、同じバスローブを着ているのに、全然違う。色っぽいし、俄然、様になっている。
 ぼけっと見惚れている僕に微笑みかけると、光輝さんは僕の横に並んで、ベッドに腰掛けた。
 そしておもむろに、手を伸ばしてきて腰紐を解き、僕のバスローブの前を肌蹴る。
「わっ……」
 僕はびっくりして、思わず、光輝さんの手を押さえた。
「合格」
 にっこり微笑む光輝さん。
 僕はローブの下は何もつけなかったので、すっぽんぽんだ。変体おじさんよろしく、ローブの前を全開して、裸体をさらしている。
「俺、言わなかったけど、シャワーの後は、下着禁止な」
「あ………、はい」
「せっかく脱いでんのに、また脱がせるなんて面度くせーだろ」
「あは……そんな理由……」
 思わず笑った。
 その両肩に手を添えて、光輝さんは僕をゆっくりベッドへ横たえさせた。
 肌蹴たローブが肩も露にして、腕に引っかかっているだけだ。部屋の冷気を全身で感じた気がした。
 光輝さんは僕を押し倒したまま、上からずっと見つめていた。
「……今日は、基本その2、……な」
 言い難そうに、顔を歪めて切り出した。
 袋から取り出されたそれは、僕でも少しは知ってる。エッチな雑誌の後ろのページで通販しているのを見たことがある。いわゆるバイブレーター。
 ……でも、ちょっとへん……?
 全長20cm、直径5cmくらいの棒のような物。先の方は括れが付いていて、まるっきり男根の形だ。棹の部分が、細くくびれたり出っ張ったりしている。そして根元の一部に小さな盛り上がりがある。
 ベッドに投げ出されたそれを、倒された時の格好のまま横目でしげしげ見ていると、光輝さんが笑った。
「もしかして、女用のと違うって知らないのか?」
「あ……」
 これは”お尻用”なのだ。僕は真っ赤になって、口を噤んだ。
 


NEXT / お仕事index / 長編SS短中編